エンジニアxデータビジネス
~ビッグデータに対する新たな戦略をビジネス先駆者とサイエンティストが語る~

稲本 浩介(いなもと こうすけ)様

稲本 浩介(いなもと こうすけ)様
株式会社ゼネラルアサヒ 情報アーキテクト

井原 渉(いはら わたる)様

井原 渉(いはら わたる)様
澪標アナリティクス株式会社 代表取締役社長シニアコンサルタント

浦 正勝(うら まさかつ)様

浦 正勝(うら まさかつ)様
西鉄情報システム株式会社 ソリューション本部副本部長 理事

FITS 2015の午後のAホールでは、近年様々な分野での利活用が進められている「ビッグデータ」についてのセッションが行われた。株式会社ゼネラルアサヒ稲本 浩介(いなもとこうすけ)氏の進行のもと、西鉄情報システム株式会社の浦 正勝(うら まさかつ)氏、澪標アナリティクス株式会社の井原 渉(いはら わたる)氏の3名によるセッションが行われた。

西鉄情報システム株式会社の浦氏

浦氏は、ビッグデータという言葉が登場する以前から、公共交通基盤のシステム開発を通してビッグデータに接してきた経歴を持つ人物である。

澪標アナリティクス株式会社の井原氏

一方、井原氏はデータ分析専門の会社を経営し、様々な分野のビッグデータに対して、データサイエンティストとして科学的にアプローチしてきた経歴を持つ人物である。

株式会社ゼネラルアサヒの稲本氏

モデレータとして、セッションの進行を担当した稲本氏。

セッションの題目としては以下の3点であった。

ビッグデータの歴史を体験してきた浦氏とビッグデータに科学的にアプローチしてきた井原氏という、バックボーンも世代も異なる二人の豊富な経験、知識を元に様々な見解、解説が披露された。また、稲本氏の場を和ませる発言も交えながらの軽快な進行もあり、80分という時間が短く感じるような、密度の濃いセッションとなった。


以降にセッションで語られた内容の概要をまとめる。

1.二人の仕事からみたビッグデータ

1.1.ビッグデータ、データサイエンティストという言葉が出てくる前と後の違い

浦氏から以下の3点があげられた。

1) ITS分野におけるビッグデータデータの価値の違い

昔からビッグデータを蓄積しており、たま活用することがあったが、保管するためのコスト高かったこともあり、あまり重要視されていなかった。最近は情報の価値が上がってきたように思われる。

2) データの分析の仕方の違い

昔は単一的なデータを分析して、目標を達成するだけだった。今は、複合データを分析するようになってきた。複合化データの中から何かを見つけ出すように変わってきた。

3) データの処理の仕方

昔はバッチ処理で処理をして1日掛かることもあったが、今は、IT技術の進歩により、リアルタイム処理の世界に入ってきている。

1.2.浦氏が関わってきたITSとビッグデータ

浦氏が関わってきたITSとビッグデータについて以下の解説があった。

1) ITS分野におけるビッグデータ

a) ITS(Intelligent Transport Systems)とは何か?

自動車交通の事故・渋滞・環境悪化をいかに防ぐかという課題の解決手段としてITSが登場した。ITSとは、人と道路と車両で情報を共有する概念である。また、現在は世界にも通じるキーワードであり日本が提唱し始めた。

b) 西鉄情報システムにおける ITS活用した歴史

以下の3つのステップにより進められている。

ステップ1

西鉄情報システムITS活用の歴史は、2000年に発生した西鉄高速バスジャック対策として始まった。乗務員の動作で、運行管理者と交通機動隊にGPSに情報が通知されるという危機管理システムを整備した。当時は、国内では緊急車両以外の業務用のバスにはGPSはついておらず、国内初の試みであった。

ステップ2

ステップ2では、このシステムを平常時の利便性向上につなげるために活用しようとする試みを始めた。そうした生まれたのが、接近案内、到着予測を行う西鉄バスナビである。

ステップ3

ステップ3では、今まで溜め込んでいたデータを、公共交通利用はもちろんのこと、マーケティング、物流、タクシー等への情報提供するような新サービス創出に向けての取り組みをを行っている。九州で培った技術を関東に売り込めないかということも視野にいれている。

1.3.井原氏とのビッグデータの関わり。

井原氏とのビッグデータの関わりとして、井原氏が経営しているデータ分析専門のコンサルティング会社の話が紹介された。

井原氏の会社では、分析官とデータマネージャ(プログラマ)で構成されている。分析官は、大学の研究者を中心として理学部数理学科の大学院、博士号をもったデータ分析の専門家からなる。また、データ分析は以下の4つのレベルに分解できるが以下のLV3,4を専門にしている。

扱っているデータ量は、ペタバイトぐらいのデータ分析を行っている。また、扱っているデータの種類としては、マーケティング情報・公共機関系の人口動態、画像データの分析等多岐にわたる。

1.4.ビッグデータへのアプローチ

ビッグデータへのアプローチとして

が考えられるが、どちらが良いと考えているかという問に対し、井原氏・浦氏の見解は同じで、目的が決まってからデータを取るべきとの見解であった。

2.データエンジニアになるために必要なものは?

2.1.データサイエンティストの定義は?

浦氏の意見としては、今までの経験からデータサイエンティストは一人ではできないのではないかと感じているとのことであった。データサイエンティストの定義にについて井原氏に詳しい解説がなされた。経済産業省の方でデータサイエンティストの定義を行っており、データサイエンティストは、一人ではなく以下の三つに分けられるべきとのことである。

実際に井原氏の会社では5つに分けており、各専門家の集団で科学的にデータの分析を行っているとのことであった。

また、浦氏の年代では、データサイエンティストは、KDD(勘、度胸、経験)が意外と強みだと言う人もいるとのことだった。

2.2.データ分析の仕事は地方でも都市部でも同じような仕事ができるのか?

井原氏の見解では、データサイエンス力、データエンジニアリング力の部分は、東京でなくても同等の仕事が可能であり、生活環境を考えると地方の方が恵まれている部分もあるのではないかということである。実際井原氏の経営する会社でも、現に大阪にも拠点を設けて東京の仕事を行っているとのことである。しかし、ビジネス力は顧客との連携があるので顧客のいる場所が良いと考えているとのことであった。

一方、浦氏はどのような仕事をやるのかと、どのような立場で仕事をするかによって異なるが、地方の方が現場に入りやすく、現場を重視したデータが取りやすく、中央は情報が2次化3次化されている方が多いのではないかと感じているとのことであった。それに対して井原氏は、東京でも千葉や横浜等に近くの工場があり現場の情報がとれるので特に違いはないと感じているとのことである。

若干見解の相違はあったが、全体的には、中央、地方のメリットデメリットがなくなってきており、データ分析の仕事は地方でも都市部でも可能だということであった。

2.3.会社規模によるビジネスの影響

井原氏もよく経験したとのことであるが、会社規模が小さいとデータ預けられないと言われることあるとのことだった。そういったところに、地方公共団体・金融期間・大手企業からの、小さい企業に対するエンドースメントがあると良いとのことであった。これらが、充実してくると新たにデータ分析のビジネスに参入しやすくなると言う事であろう。

3.データエンジニアリングの将来と課題

3.1.ビッグデータの分離

浦氏の見解では、ビッグデータは以下に分けられるのではないかとのことである。

行政はオープンデータとして②を出しているがまだ限定的であり、民間でも①②を分離して、Docomoの G空間プラットフォーム のようなビジネスモデルを打ち出していくべきだと感じており、公共性の高いデータとビジネス的を融合されることで、今後のビッグデータビジネスが活性化されると考えているとのことであった。

3.2.パーソナルデータに対する課題

1)オプトアウトの認知不足

井原氏からオプトアウトに対する解説があった。日本人は、オプトアウトに対する認知が少なく利用者が少ない。一方アメリカではオプトアウトの使用が多く、例えば、レコメンドサービスを見ると、レコメンドサービスを行うためには、パーソナルデータの提供が必要だが アメリカの場合レコメンドサービスというベネフィットと、個人情報公開のコストを考えて、各個人で判断しており、オプトアウト利用が多いとのとのことである。日本でもオプトアウトの認知を深めていく必要があるとのことであった。

2)ビッグデータの中のパーソナルデータの価値

浦氏の見解では、ビッグデータの出処は以下とのことである。

このなかで、パーソナルデータが他と比べて増加しており、またビジネスになるということで、もっとも利活用が期待されているとのことであった。

3)パーソナルデータに関する日本の状況

パーソナルの利活用についてはまだまだ個人と事業者の考え方が一致していないとのことである。期待されているパーソナルデータだが、まだまだ、。パーソナルデータの利活用、プライバシー保護とのについて議論を深める必要があるとのことであった。また、他国の状況をみると、EUでは個人情報が他国に流れることを規制してており罰則規定が厳しいとのことであった。(日本では他国に情報が流れることによる規制はない)。そして、アメリカでは個人情報保護法はない。アメリカ大統領が任命するFTCが柔軟に対応しており、規制と教育が一体となっているのが特徴とのことであった。

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